スポーツ競技では、様々な理由で、ルールが改正される。
競技をより面白くするため、選手の安全を守るため、試合時間の効率化を図るため、テレビ中継などの商業的理由のため、戦力の均等化を図るため、特定のチームを有利にするため、・・・。
様々な思惑の中、「公平さ」を理由にして、ルールが改正されてきた。
そのルール改正に対し、批判しているだけでは、競技に勝つことはできない。
「強いものが勝つのではなく、変化に適応したものが勝つ」
この言葉の通り、スポーツの世界でも、新しいルールに適応したものが、勝者としての権利を持つ。
当記事では、
- 高校野球での「臨時代走」
- ソフトボールでの「テンポラリーランナー」
という、比較的新しく、似て非なるこの二つのルール規則について、説明したい。
[当記事は、前身ブログ「はじめはみんな初心者だ」での記事「高校野球の臨時代走、ソフトボールのテンポラリーランナーについて」(公開日:2018/04/27)を、加筆・修正したものです。当ブログでの公開日:2018/07/12]
1.高校野球での臨時代走とは
高校野球では、野球として基本的に共通するルールのほかに、高校野球ならではの特別な規則が存在する。
たとえば、プロ野球との差でいえば、高校野球では金属バットが使用できるルールが有名だ。
こういった規則は、
高校野球特別規則
として、決められている。
公益財団法人日本高等学校野球連盟、”高校野球特別規則(2018年版)”。
http://www.jhbf.or.jp/rule/specialrule/specialrule_2018.pdf
(参照2018-07-12)
その特別規則の一つに、
臨時代走者
が存在し、次のように記述されている。
試合中、攻撃側選手に不慮の事故などが起き、治療のために試合の中断が長引くと審判員が判断したときは、相手チームに事情を説明し、臨時代走者を適用することができる。この代走者は試合に出場している選手に限られ、チームに指名権はない。
同上、”高校野球特別規則(2018年版)”、p3。
http://www.jhbf.or.jp/rule/specialrule/specialrule_2018.pdf
(参照2018-07-12)
このルールで注意したいのは、
・判断するのは審判員
・臨時代走となる選手は、規則で決まっている
ということだ。
2.ソフトボールでのテンポラリーランナー
多少偏見があるかもしれないが、ソフトボールは、
- ピッチャーが下投げ
- 離塁禁止
が特徴の、野球よりスモールサイズで行われる競技、というのが、一般的なイメージであろう。
その見方への賛否は別として、ソフトボールでは、ルールの改良が比較的、積極的におこなわれている。
- 故意四球の通告
- 延長タイブレーク制度
といったルールは、ソフトボールで先に導入され、のちに野球でも導入されており、ソフトボールは野球より積極的にルール改正を行う印象がある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/タイブレーク
(参照2018-07-12)
前置きが長くなったが、ソフトボールの「テンポラリーランナー」について説明する。
ソフトボールの「テンポラリーランナー」は、高校野球での「臨時代走」と、一見似ているが、全く別物で、規則は以下の通り。
1-69項 テンポラリーランナー TEMPORARY RUNNERとは、捕手が塁上の走者となっていて二死となったとき、あるいは二死後、捕手が出塁し、走者となったとき、捕手の代わりに走者となる選手のことである。テンポラリーランナーと交代させるかどうかは、攻撃側チームの選択である。
テンポラリーランナーは、塁上の走者以外の選手で、打順が最後に回ってくる者とする。公益財団法人日本ソフトボール協会、”2018 オフィシャルソフトボールルール”、公益財団法人日本ソフトボール協会。2018年2月1日発行。p.22。
ここで注意したいのは、テンポラリーランナーは、
・捕手が走者となったとき
・二死
・交代するかどうかは攻撃側チームの選択
・交代して出る走者は「塁上の走者以外の選手で、打順が最後に回ってくる者」
といった細かな決まりがあることである。
(補足)
テンポラリーランナーの走者としての記録(盗塁・得点)は、交代した走者(テンポラリーランナー)につく。(一時的に交代してベンチで準備している捕手の個人成績にはならない。)
したがって、従来は、個人の盗塁や得点記録は出塁率と深く結びついてきたが、テンポラリーランナーによって、盗塁・得点と出塁率の関係は、(全体から見ればごくわずかだが)薄まる方向に働いていると言えるだろう。
3.臨時代走とテンポラリーランナーの違い
細かなルールを見れば、「臨時代走」と「テンポラリーランナー」の両者が全く別の制度であることが分かっていただけるだろう。
両者とも、
攻撃中にいったん走者が代わってベンチに退くが、攻撃終了後の次の守備にはその走者の交代がなかったことにされて再び守備につくことができる
という点では共通するが、その目的は異なっている。
箇条書きにして具体的に説明すると
高校野球の臨時代走は、
- 不慮の事故が起こって治療で時間が掛かりそうなとき
- 審判の判断で
- 投手を除いた選手のうち、その時の打者を除く打撃を完了した直後の者
ソフトボールのテンポラリーランナーは
- 攻守交替時にキャッチャーの道具の準備に時間が掛かるのを短縮するため
- 二死で捕手が走者となった場合のみ
- 攻撃側チームの判断で
- 塁上の走者以外の選手で、打順が最後に回ってくる者
となる。
目的が異なっているので、内容も細かなところで異なっている。
だが、このルールをチームの勝利のために利用できるかどうかという視点でとらえたとき、この両者のルールで一番大きな違いが出るところは、
- 「臨時代走」が審判の判断
- 「テンポラリーランナー」は攻撃側チームの判断で選択できる
という点である。
選択権があるないということでは、選択権のない「臨時代走」は指示に従うほかないが、選択肢のある「テンポラリーランナー」の方は、その使い方によって戦略的な意味を持つ余地がある。
(話は変わるが、ソフトボールに高校野球の「臨時代走」の概念がないわけではない。ソフトボールには、「代替プレイヤー」という決まりがあって、治療等の間に、ラインナップに入っているプレイヤー以外であれば、すでに退いた選手を含めたどのプレイヤーでもそのイニングのみ代わりに出れる規則がある。)
(また、両者の違いという点では、高校野球の臨時代走が「投手を除いた」となっているのに、テンポラリーランナーにはその制限がない、といったところもある。これは、ソフトボールが打撃専門のDP(野球でいうDH)というルールが、通常のルールとしてあることが背景として考えられる。)
4.ソフトボールのテンポラリーランナーの戦略性の余地の少なさ
テンポラリーランナーを使うかどうかは、攻撃チームに選択権があるので、戦略性を求められる余地があるが、実際に、戦略として使うには難しいように思える。
というのも、「二死」、「捕手が出塁」、「代わりのランナーになる選手」、の条件が決められているからだ。
これをゲーム前に想定して打順を組むことも考えられるが、実際に、二死の時点で捕手が出塁していて、かつ、その時にテンポラリーランナーになる選手を想定することは、かなり複雑で難しい。テンポラリーランナーになるには、その時点で走者になっていない、という条件も考慮に入れなければならないからだ。
しかも、通常、テンポラリーランナーの対象になる可能性がある打順は、
捕手の3つ前の打順の選手(捕手の直前の打者二人が二・三塁を埋め捕手一塁で二死満塁のケース)から、捕手の4つ後の打順の選手(ノーアウトで捕手が出塁し、その次の3人の結果で捕手三塁の一死満塁となった後、ランナーそのままで次の打者がアウトになり走者そのままで二死満塁となったケース)まで
と、幅広い。
これがどういうことかというと、
テンポラリーランナーとして代わりに走者になる可能性のない打順の選手は、捕手の「4つ前以上の打順」でかつ「5つ後以上の打順」の選手だけで、9人制の場合だと、それに当てはまるのは一人だけであり、その一人を除いた他の打順の選手はすべてテンポラリーランナーになる可能性がある。
(さらに稀な例だが、打順を間違った上で相手チームからのアピールが無く成立した場合も考慮に入れると、理屈上は、すべての打順の選手にテンポラリーランナーになる可能性がある)。
このように、「二死で捕手が走者」という状況が毎試合訪れるとは限らないうえに、対象が誰になるかわからないテンポラリーランナーを想定して打順を組む、というのは、確率が悪すぎるし、優先順位は低い。
あくまで、捕手が二死後の走者になったとき、その時に対象となるテンポラリーランナーと捕手の走力を天秤にかけ、どちらが有利かを判断して選択する、というレベルが戦略の限界だろう。
5.ソフトボールのテンポラリーランナーの数少ない戦略例
ただ、テンポラリーランナーのルールは、当初、「捕手の(塁上に出ていない)前の打者」と決められていたが、2016年度に改正されて、「二死になった時点で塁上の走者ではない打順が最後に回ってくる者」、になった。
また、「TEMPORARY RUNNER」は、ISF世界選手権をはじめ、各種国際大会での実際の運用・適用を確認した結果、JSAルールでは「捕手の前の打順の者」としていたものを、ISFルールの適用に合わせ、「打順が最後に回ってくる者」に改めました。
公益財団法人日本ソフトボール協会、”2016 オフィシャルソフトボールルール”、公益財団法人日本ソフトボール協会。2016年2月1日発行。p.3。
このことは、より選択肢の可能性を増やすことになった。
典型的な例を挙げると、一死1塁(走者捕手)で、打席に俊足の打者のケース。
この時、打者が送りバンドを成功し、二死2塁(走者捕手)になったら、そのまま、テンポラリーランナーを利用して、俊足の走者に代えることができる。
このケースを想定した場合、一死1塁からの犠牲バントは、効率の悪い面もあるが、
- バンド成功率の高い俊足の打者
- 上手くいけば一死1・2塁、
- 犠牲バント成功で二死二塁になったら、その俊足の打者がそのままテンポラリーランナーとして得点圏走者に入れ替われる
となり、より確実性の高い戦略を取れるようになった。
これは、テンポラリーランナーを意図的にコントロールできる数少ない例として、有効であろう。
もちろん、捕手が俊足の選手であれば、テンポラリーランナーを選択する必要のない話だ。だが、そうでない場合は、より得点の取れる可能性が高い選択肢の一つとして、作戦の幅が広がる可能性を秘めている。
まとめ
- 一見同じように見える「臨時代走」と「テンポラリーランナー」の違いは
- 高校野球の「臨時代走」は一時的なけが人の代わり、ソフトボールの「テンポラリーランナー」は捕手の準備の時間短縮のため
- 「テンポラリーランナー」は代わりに出る走者を前もって予測するのは難しいので、戦略として考慮する優先順位は高くない
- ただし、一死1塁(走者捕手・バッター俊足の打者)の場合は、犠牲バンドで、二死2塁にして二塁ランナー(捕手)とアウトになった打者(俊足)がテンポラリーランナーとして入れ替わる作戦もアリ
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